まとめ
- リモートワークは増えているが、疲弊する現場も
- 非同期コミュニケーションで集中できる時間を奪わない
- 対人コミュニケーションではなく対コトコミュニケーションを行う
コロナをきっかけにリモートワークは急速に普及し、2021年の10月時点でも既にリモートワーク導入企業は3割(32.2% 内閣府調査)となっています。Zoom会議が当たり前となり、企業により違いはあれど、以前に比べればリモートで仕事ができる環境や文化は定着してきているのではないでしょうか。
一方で、リモートワークをやめて出社したいという意見も目立っているようです。こちらの調査では、20代の67.4%が出社を希望しているという結果が出ています。一見ITリテラシが高そうな若者がリモートワークを嫌がる理由はなんでしょうか。
ここにはリモートか出社かという議論を越えた、仕事の進め方そのものの問題が隠れています。端的に言えば、ツールを導入しても会社のコミュニケーションのやり方自体がアップデートされなければ高い生産性は期待できないということです。そしてコミュニケーションの軋みの中で現場への負荷が高まり、若者にツケが回っているのではないでしょうか。
弊社では私(エストニア)含め海外や国内の離れた場所から全員が完全リモートで働いています。この記事では、リモートネイティブな働き方、つまり出社していようがしていまいが関係なく高い生産性を発揮できる仕事の仕方の一部として、非同期コミュニケーションと対コトコミュニケーションの二つを取り上げたいと思います。
完全リモートワークのコツ1:非同期型コミュニケーションで、生産的な時間を奪わない
すべてをミーティングでやろうとしていないか?
インテルの立役者であるアンドルー・グローヴはその名著ハイ・アウトプット・マネジメントの中でミーティングについてこう書いています。
「ミーティングはマネジャーが仕事を遂行する”手段”そのものにほかならない」
「われわれはミーティングの存在の当否と戦うのではなく、むしろその時間をできるだけ能率良く使わなければならないのである。」
IT化やDXとなるとミーティングを減らす、という話になりがちですが、マネジャーが意思決定し、実行するということはメンバーにその戦略と意図、具体的なアクションが共有されている必要があります。またそのためにはマネジャーは仕事の細部における情報、その違和感なども知っている必要があります。彼はそれを行うにはミーティングは必要ですね、と言っています。
ただ現在問われているのはそのすべてをミーティングでやろうとしていませんか?ということです。
目的に応じてコミュニケーションチャンネルを変える
コミュニケーションチャンネルによって強みは変わります。分類としてここで取り上げたいのは同期・非同期という観点です。
分類 | 例 | 強み | 弱み |
---|---|---|---|
同期型 | ミーティング 隣同士での会話 Zoom・電話 |
強いメッセージを発信できる 相手の温度感を測りながら話し、認識の齟齬を減らすことが出来る その場で議論が可能 |
調整に時間がかかる ミーティング自体に時間がかかる 関係のないトピックにも時間を割かれる 相手の時間を分断してしまう(集中できる時間を削ってしまう) 議事録に残っている件をのぞき、言った言わないが発生しやすい データを読み込むなどじっくりした時間がとられづらい。雰囲気で話が進みやすい。 |
非同期型 | メール チャット ドキュメント タスク管理ツール 動画等 |
文面化されているので言った言わないが発生しづらい 相手は自分の都合の良い時間に受け取れる |
すぐ返事が来ない 量が多く、流されやすい 重要性を認識してもらいづらい 認識がずれたまま仕事が進んでしまう |
同期型で集中できる時間を奪い、生産性をさげていないか
言葉の通りですが、同期型コミュニケーションは相手の時間と自分の時間を合わせる、ということが特徴です。それゆえ密な質疑応答、議論を行うことができます。
一方で半ば強制的に時間を共有しているため、相手の一日のスケジュールを分断しがちです。よくエンジニアやデザイナーなど集中力が必要な仕事は素潜りに例えられます。海中深くまで行って活動している最中に上司から海上に呼び出され、また海中深くに戻りにいかなければならない。その数分後にまた呼び出される、ということを繰り返している人は少なくありません。まとまった1時間と分断された30分x2は決して同じではありません。
非同期型のコミュニケーションの最大の特徴は、当たり前ですが、読む時間を相手が選べるということです。テキスト等であれば重要性が伝わりづらいなどあるかもしれませんが、本当に大事なことをミーティングの中で共有し、それ以外はできるだけ非同期にすることで、彼らの集中できる時間を確保することが必要です。
完全リモートワークのコツ2:対人ではなく対コトコミュニケーションを行う
リモートワークになってよく聞かれる悩みとして「誰がどんな仕事をやってるのかわからない」というものがあります。
でも実際はどうでしょうか。以前デスクの隣にいたときはどれだけ見えていたのでしょうか。その人の仕事のゴールがどこにあり、現状がどうで、何が障害になっているのか、どれだけ把握できていたのでしょうか。
確かにデスクの横にいればちょっとしたことを聞くことが出来ます。でも話しかけられた方が上記の素潜りのような状態だったとしたらどうでしょうか?一度や二度ならず何度も中断されて一日の終わりに「俺は今日何してたんだろう」という状態になっていたとしたら?
また、人によってはテキストのコミュニケーションで必要以上に攻撃的になったり、逆にそんな意図がなくとも攻撃ととらえられたりするケースも多くあります。暖かいコミュニケーションをするために絵文字を推進すべきなのでしょうか?
雑談をコミュニケーションの基盤にしない
対面での雑談は会社の潤滑油ですが、クリティカルなコミュニケーションとして頼るべきではありません。またすべての情報がチャットに流れ始めると、今度は情報過多で何が起きているのかわからなくなります。
全体把握の方法は雑談ではなく、整理されたコミュニケーション基盤に頼るべきです。具体的にはチャットでだらだらと話すのではなく、タスクをKGI/KPIに紐づいた形で起票し、それぞれのカードに対してコメントを残していく(必要に応じて@でメンションしていく)という方法です。
タスクカードへのコメントで会話
口頭で「あの件どうなったっけ?」と聞いた場合、聞かれた方は「あの件ってどの件?」となりますし、状況が複雑な場合はその顛末を全てテキストにして共有する必要があります。
会社内でタスク管理ツールが整備されている場合は、そのタスクカード上に仕事で必要な情報が記載されており、起きていることに対して都度コメントをタイムスタンプ付きで書くことができます。
弊社ではプロジェクトやタスクの管理にNotionを使っていますが、以前私がNFTの仕事をしているときに調べ物をしながら、発見したものやうまくいかない点についてコメントを残していきました。
こうするとトラブルがあった際の状況共有も簡単ですし、朝自分が起きたときに今日はどこから始めればいいのかというログにもなります。
タスクに対するコメントさえ残っていれば上司は直接聞く前に状況の把握をすることができます。必要であれば、そこにコメントを残すことでミーティングを開かずとも解決するかもしれません。
タスクを会話の対象物にして一体感を持つ
また会話の対象物をタスクにすることで、上司と部下が一体となって課題解決に立ち向かっているんだという空気をサポートすることができます。あくまで上司は部下がやりたいことの障害を取り除く支援者なんだということが言葉ではなく行動で伝われば、コメントを主体的に書いていく文化も形成されていきます。
こうした職場の心理的安全性があって初めて安心してチャットやタスクカードにコメントすることができ、変に攻撃ととらえられたりしづらくなります。
結果的にホウレンソウは必要なくなり、ゆえに「若者がホウレンソウしないんだよな」と嘆くこともなくなります。必要なのはタスクに対するログです。
非同期・対コトコミュニケーションでリモートネイティブな文化へ
リモートネイティブな働き方は、リモートワークのためというよりも、リモート”でも”生産性の高いコミュニケーションを実現する方法です。
もしツールを導入したけれども活用しきれていないというお悩みがあれば、
- ミーティングや電話で行っていることを非同期コミュニケーションに置き換えられないか?
- 人に対するコミュニケーションでなく、コト(タスク等)に対するコミュニケーションに置き換えられないか?
という観点で整理してみてはいかがでしょうか。